限りない喪失と絶望!『海のトリトン』衝撃の最終回と意味~主題歌、動画

アニメ、芸術

限りない喪失と絶望!『海のトリトン』

衝撃の最終回と意味~主題歌(歌詞)、動画、

■『海のトリトン』と私

映画『タイタニック』で一世を風靡したアメリカ合衆国の俳優、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)。次の映画が期待される中、100本以上のオファーを蹴ってまで、出演を決めた異色作が映画『ザ・ビーチ』(原題:The Beach)。

映画の撮影が行われたのは、アンダマン海に浮かぶタイの無人島「ピピ・レイ島」(Phi Phi Lei Island)」。巨大な奇岩に囲まれたビーチ「マヤベイ」(Maya Bay)がロケ地となった。“美しすぎるほどに美しく、日常の全てから解放される夢の楽園”として描かれた。

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■『海のトリトン』とは?

青い海と空、サンゴ礁をバックに戦う、不思議な少年。

この少年は何者なのか。

どこから来て、どこへ行こうとしているのか。

この物語は

遥か彼方、

黒潮が洗う、

日本の一漁村から始まった……

テレビアニメの『海のトリトン』は、こんなナレーションで始まる。初めて放映されたのは、1972年4月から9月末まで(全27話)。

富野由悠季初監督作『海のトリトン』は、アニメ史に残る「善と悪の大逆転劇」「すべてがひっくり返るラスト15分」として今も語り継がれている。

■『海のトリトン』 主題歌「GO! GO! トリトン」と歌詞

ホルンとトランペットのマカロニウエスタン風の出だし。ギターのカッティングも印象的。裏話としては、歌につけるオープニングフィルムが間に合わなかったため、初回放映では第6話まで、須藤リカとかぐや姫の歌う「海のトリトン」がオープニングとして使われていた。

『海のトリトン』 主題歌

作詞:林春生

作曲:鈴木宏昌

GO! GO! トリトン

水平線の終わりには

虹の橋があるのだろう

誰も見ない 未来の国を

少年は さがしもとめる

広がる海の かなたから

何が呼ぶと いうのだろう

希望の星 胸に残して

遠く旅立つ一人

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴーゴーゴーゴーゴー!トリトン

はるかな波の むこうには

夢の世界が あるのだろう

誰も見ない 未来の国を

少年は さがしもとめる

広がる海の かなたから

不思議な歌が きこえるだろう

あしたの星 胸にしるして

遠く旅立つ一人

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴーゴーゴーゴーゴー!トリトン

広がる海の かなたから

何が呼ぶと いうのだろう

希望の星 胸に残して

遠く旅立つ一人

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴー!トリトン

ゴーゴーゴーゴーゴーゴー!トリトン

■『海のトリトン』 歌手

『海のトリトン』の歌手は、ヒデ夕樹。

『海のトリトン』の主題歌「GO! GO! トリトン」だけでなく、『あしたのジョー』の後期エンディング曲「力石徹のテーマ」、日立グループのCMソング「この木なんの木」なども歌っている。

■『海のトリトン』 エンディング

『海のトリトン』のエンディングは、須藤リカが歌を担当。

作詞:伊勢正三、作曲:南こうせつ。『神田川』で知られる、かぐや姫もコーラスとして加わっている。作品初期(第1話~第6話)はオープニングテーマだったが、第7話以降はエンディングテーマとして使われた。

■テレビアニメ版『海のトリトン』

原作は、手塚治虫。サンケイ新聞に連載漫画『青いトリトン』として掲載された。マンガの神様・手塚治虫が描いたが、まったくおもしろくない。

そこで、日本アニメ界の巨匠、富野由悠季(当時、本名の喜幸)が、内容をほぼ変えてオリジナル化した作品がテレビアニメ版の『海のトリトン』だ。

富野由悠季といえば、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』の制作に始まり、『機動戦士ガンダム』などのガンダムシリーズで知られている。

常に予想外の展開で視聴者を驚愕させる才気にあふれ、その富野由悠季の初監督となる作品が『海のトリトン』だった。

■『海のトリトン』 あらすじ

5000年前のアトランティス大陸で、ポセイドン族によって滅ぼされたトリトン族。その末裔である少年トリトンは、自分の両親を殺し、海を支配するポセイドン族を倒すため、伝説のオリハルコンの短剣を持ち、海を舞台に大冒険を繰り広げる。

■『海のトリトン』 ポセイドン族とは?

少年トリトンの一族を虐殺した種族が、ポセイドン族。オリハルコンの短剣を奪うため、トリトンに戦いを挑む。

■『海のトリトン』 ピピ

『海のトリトン』で忘れてはならないのは、人魚姫のピピ。

トリトンと同じ、トリトン族の末えい。

北極海でゾウアザラシのプロテウスに育てられるが、甘やかされて大事にされていたためにわがままな性格に育つ。

ポセイドン族によって、育ての親のプロテウスやアザラシたちは皆殺しにされ、トリトンと一緒に旅立つことになる。

トリトンになかなか心を開かないピピだったが、イルカ島がポセイドンによって破壊されたこときっかけに、トリトンと打ち解けあう。

■『海のトリトン』 第1話

1 海が呼ぶ少年

漁師の一平爺さんに育てられた少年。名前は、トリトン。幼いころに海岸で拾われた子どもだった。

緑色の髪を持つトリトンは『海人』とされ、不吉な少年と恐れられていた。

ある日、一頭の白イルカ(ルカー)が現われ、トリトンに出生の秘密を教える。

そんな時、漁村を海獣サラマンドラが襲ってきた。白イルカは、ポセイドン族の手下だとトリトンに告げる。

トリトンは、 一平爺さん が用意してくれた短剣を持ち、トリトン族の衣装に着替えて、戦いに挑んでゆく。

海獣を倒したトリトンは、村に迷惑をかけないために一平爺さんに別れを告げ、自分自身に秘められた謎を追い求め、海へと旅立つ。

■『海のトリトン』 第27話(最終回)

27 大西洋陽はまた昇る

冒険を通してトリトンが成長していく王道の少年向けアニメですが、問題は最終回。

トリトンたちはポセイドン神殿へと乗りこんだ。今まで旅で知りあった多くの仲間たちと一緒に。ポセイドンと対決するトリトン。オリハルコンの剣の輝きによって、巨大なポセイドン像が動き出す。神殿は崩れ落ちる。

ポセイドン像の真下には、海底都市があった。トリトンはポセイドン族に勝利する。だが、過去に何があったのか、そのすべてを知る。ポセイドン族も、トリトン族も、かつては同じアトランティス大陸で共存していた仲間だった。

トリトンは、多くのポセイドン族の人たちを皆殺しにしたのだった。

■『海のトリトン』最終回の動画アニメ・画像

13歳の少年が1万人を大虐

このラストシーンを詳しく見てゆきましょう。

太平洋、北極海、インド洋、紅海、地中海へと旅を続けたトリトン。冒険の果てに、いよいよ、ポセイドン族の本拠地、大西洋へと向かいます。

そこは、遥か昔、海の底に沈んだアトランティス大陸がある場所。

海底には、ポセイドンの神殿が今も建っています。

そこに待ち構えるのは、ポセイドン族最後の怪人ゲルペス。

トリトンの両親を殺したのは俺だと、トリトンを挑発するゲルぺス。

トリトンの怒りが爆発します。復讐心の鬼と化します。

トリトンのオリハルコンの剣の輝きに、ゲルぺスは瞬時に消えてゆきます。

神殿の奥には、ポセイドンの巨大な像。

ポセイドン像は、トリトンに剣を突き付け、ゆっくり動き出します。

しかし、意外なことにポセイドン像は、オリハルコンの短剣を鞘に収めるようトリトンに懇願します。

ポセイドン像は「これ以上動くと、我らポセイドン族は全滅する!ポセイドン像はオリハルコンの輝きに引かれて動き出すのだ!」と言います。

 

ポセイドン像「オリハルコンにはお前たちトリトン族の言い伝えに言う以上の恐ろしい魔力があるのだ」

ポセイドン像「これ以上、ポセイドン像が動くと、我らポセイドン族は全滅する。ポセイドンの像は、オリハルコンの輝きにひかれて動き出すのだ」

その時、ポセイドンのしもべのサメがトリトンに襲いかかり、トリトンはオリハルコンの短剣でサメを撃退。オリハルコンの剣の輝きによって、ポセイドン像が大きく動きだします。

セイドンの声が、剣を振りかざしているポセイドン像とは違うところから聞こえてきます。

オリハルコンの輝きを見せないようにすれば、ポセイドン像は止まります。トリトンは短剣を鞘に収めると、ポセイドン像は歩みを止めます。

ポセイドン像を操っていた者は誰なのか。ポセイドン像の謎を解かない限り、戦いは終わらないと考えたトリトン。

ポセイドン像が立っていた場所には大きな穴が開いています。「おやめなさい、トリトン」というルカ―の声を振り切り、トリトンは穴の中に入ってゆきます。

穴の奥底には光り輝く海底都市がありました。

古代ローマのような石造りの街はしかし、多くの人間の死体がごろごろと転がっています。

どれも、今死んだような生々しい死体ばかり。

トリトンが街に降り立つと、円形闘技場(コロッセオ)から声が聞こえてきます。

「これがトリトン、お前が犯した罪だ」という声が響きます。

コロッセオの中に入ってゆくトリトン。

「ポセイドンの像はオリハルコンで出来た像だった。そのエネルギーを使ってこの街を造り、生活をしていたポセイドン族の太陽を奪ったのがお前なのだ!」

声の主をたどってゆくと、ポセイドン族の長老らしき老人が腰かけ、青い顔で死んでいます。

長老の前には、黄金色に輝くホラ貝。ポセイドン像の声は、このホラ貝が発していました。

ここからは、ホラ貝と、トリトンの会話になります。

ホラ貝「このホラ貝は、オリハルコンの剣が近づくと働き、剣の輝きの力でお前の質問に答えるようになっている。しかし剣を抜くことはポセイドンの像をひきつけ、呼ぶことになる」

トリトン「何故あの像がお前たちの太陽なんだ」

ホラ貝「答えよう。お前がきた穴から太陽のようにオリハルコンのエネルギーが放射されて、それで我々は暮らしていた。たがそれをお前は壊した」

トリトン「お前たちが俺に壊さしたんじゃないのか」

ホラ貝「答えよう。アトランティス人が伝えたその短剣がポセイドンの像を破壊するものなのだ。我々はそれをどうしても手に入れたかった」

トリトン「そのために世界中の海を荒らし回ったのか」

ホラ貝「そうだ。トリトン族を倒しこの地底世界から抜け出そうと、ポセイドンの像のエネルギーを使ったのだ。しかしそれも全て終わった」

――海底都市が揺れ始めます。

トリトン「うわ、なんの響きだ!?」

ホラ貝「答えよう。像がお前の短剣にひかれてこの街へ降りてきたのだ」

――海底地震が起こり、ポセイドン族の長老の死体が前のめりに倒れます。

ホラ貝は、トリトンの足もとに転がります。

ホラ貝「何故このようなことになったか教えよう、全てアトランティス人が作り出したことなのだ」

トリトン「アトランティス人?」

ホラ貝「そうだ。アトランティス人がポセイドンの像を造り出した時、我々は人身御供として…」

――地震がさらに激しくなります。

トリトン「人身御供?生け贄にされる人たちのことだな。…きた!」

――トリトンが降りてきた穴から、ポセイドン像の足が現れます。

ホラ貝「そうだ、我々の祖先は生け贄だった。ところが生け贄にされた人々の何人かが、オリハルコンのエネルギーによって生き長らえたのだ」

――ポセイドン像が、海底都市に降り立ちます。

ホラ貝「そのエネルギーを武器に我々はアトランティス人に復讐をした。だがアトランティス大陸が沈む直前に、彼らはポセイドンのオリハルコンのエネルギーに打ち勝つ、マイナスの力を持つオリハルコンの短剣を作り出したのだ」

トリトン「そうか、その短剣を持って生き延びたアトランティス人の生き残りがトリトン族、俺の祖先と言う訳か」

ホラ貝「そうだ。やっと生き延びた1万人たらずの我々を殺すために、お前は戦った」

トリトン「それは海の平和を守るためだからだ。それがポセイドンを倒すためだからだ!」

ホラ貝「我々はこの狭い世界の外に出たかった。トリトン族を倒して平和に暮らしたかっただけなのだ」

トリトン「俺は…ハッ!」

――ポセイドン像が壁を破壊し、コロッセオの中に入ってきます。

ホラ貝「ポセイドンの像を動かしたのもトリトン、お前だ。

我らポセイドン族を全て殺したのもトリトン、お前だ。

像を倒さぬ限り、世界が破壊されるようにしたのもトリトン、お前だ!」

トリトン「違う、みんなポセイドンが悪いんだ!」

ホラ貝「トリトンよ…」

この言葉を最後に、ホラ貝はポセイドン像に踏みつぶされます。

トリトン最後の戦いは、ポセイドン像との戦い。

ポセイドン像が放つプラスのエネルギーと、トリトンが持つオリハルコンのマイナスエネルギーがぶつかりあいます。

トリトン「この短剣がポセイドン像に打ち勝つのなら……。オリハルコンよ、輝いてくれ。輝け!オリハルコーン!!!」

トリトンは、ポセイドンの剣をくぐりぬけ、ポセイドン像の喉首に短剣を突き立てます。まぶしい輝きとともに、倒れてゆくポセイドン像。

海底に沈むアトランティス大陸から、巨大な海底火山が噴き出します。

■『海のトリトン』 最終回 まとめ

苦難の旅の果て、ポセイドン族の本拠地へ乗り込んだトリトンですが、最終回で衝撃の真実を知ります。

以下が、衝撃の真実の内容。

・その昔、アトランティス人は伝説の金属「オリハルコン」で、巨大なポセイドンの神像を作った。ポセイドン族と呼ばれる人々は、生け贄として、ポセイドンの神像の下に閉じ込められた。アトランティス大陸の下には、ポセイドン族が生きたまま封印されたのだ。

・ポセイドンの神像の生け贄とされたポセイドン族だが、一部の人びとは、ポセイドンの神像から放たれるオリハルコンのエネルギーを利用して生きのびることができ、海底都市を建設する。

・ポセイドン族というのは、アトランティス人によってポセイドンの神像への人身御供として捧げられた人々の生き残りだった。

・ポセイドン族は、アトランティス人への復讐を忘れなかった。ポセイドンの神像から放たれるオリハルコンのエネルギーを使って、多くのアトランティス人とともにアトランティス大陸を沈めてしまう。

・一方、アトランティス人は全滅していなかった。わずかばかりに生き残ったアトランティス人はトリトン族と名乗り、ポセイドン族に復讐する。

・トリトン族は、ポセイドンの神像から放たれるオリハルコンのプラスエネルギーに対し、これに打ち勝つマイナスのエネルギーを持つオリハルコンの短剣を作った。

・ポセイドン族から逆襲を受け、わずかになったアトランティス人が、トリトン族を名乗り、ポセイドン族を全滅させるために受け継がれた伝説の武器が、少年トリトンに託された「オリハルコンの短剣」だった。

・マイナスエネルギーのオリハルコンの短剣は、プラスエネルギーを持つポセイドン像を破壊する力を持つ。海底の穴で暮らすポセイドン族にとって、自分たちの生存に必要なポセイドン像を壊されることは脅威だった。

・最終回で、怪人ゲルペスは、トリトンに対し、「素直にオリハルコンの剣を渡してくれれば、おまえの両親を殺すことはなかった」と話している。

さらに、ゲルぺスは言う。

「オリハルコンの剣を渡さなかった、おまえたちが悪い」

ポセイドン族は、自分たちの妻や子どもを守るため、自分たちが生きのびるために戦っていたのだ。

・ポセイドン族が、少年トリトンに戦いを挑むのは、オリハルコンの短剣をどうしても手に入れたかったためだった。しかし、ポセイドン像を打ち砕く破壊威力のある、オリハルコンの短剣によって、次々と滅ぼされてゆく。

・ポセイドン像から放たれるプラスエネルギーのオリハルコンの力によって、現代まで生き延びていたポセイドン族。

・だが、トリトンが持ってきたオリハルコンの短剣の力によってマイナスのエネルギーが働き、ポセイドン像が動き出し、海底都市に住んでいたポセイドン族はエネルギーが供給されなくなり、アトランティス大陸の生き残りである約1万人のポセイドン族は全滅する。

13歳の少年は、女性や子供を含めた1万人を大虐殺したのだった。

・「ポセイドン族を滅ぼしたのはお前だ!」と、ポセイドン族から責められるトリトン。

「俺が悪いんじゃない、ポセイドンが海の平和を乱すからだ!」と、必死に言い返すトリトン。

・トリトンは、ポセイドン像との戦いには勝利する。だが、殺してしまった人びとは、もう生き返ることはない。

■そしてまた少年は旅立つ

漁師の一平爺さんが暮らしていたような、ささやかながらも平和に暮れしていた人たち。女性や子どもの多く、そんな罪のない一般市民をアメリカの原子爆弾のように瞬時に殺害したトリトン。

さらに、自分たちの祖先が、自分たちが生き残るため、何の罪のない多くの人々を生け贄にしていたことを知るトリトン。

最終回に待っていたのは、「自分は海の平和を守るため」「悪いポセイドン族を倒すため」と、自分が正義だと疑うことのないトリトンが、実は大虐殺者であったという、驚愕の事実。

物語の最後は、白イルカのルカーの背に乗り、日が昇った太平洋へと進んでゆくトリトンの後ろ姿。赤いマントを海風になびかせて。

「そしてまた少年は旅立つ」というナレーションが重なり、『海のトリトン』物語は締めくくられる。

■悪いのはトリトン族、ポセイドン族?正義とは?

最終回では、「トリトンがポセイドン族を絶滅させた」という点ばかりが注目されている。だが、ポセイドン族も、アトランティス大陸を沈め、女性や子どもを含めた多くのトリトン族の祖先を皆殺しにしたのだった。

本当に悪いのはどちらなか?

『海のトリトン』は、富野由悠季が『機動戦士ガンダム』などでも描いている、「正義とは何か」というテーマを最初にぶつけた、原点的な作品だった。

それにしても、突飛すぎる最終回。大人になった今でも、じっくり考えなければ良く理解できない。幼稚園児や小学校低学年が見ていたアニメ番組で、かなりの無理があるのではないか?

「すべてがひっくり返るラスト15分」と言われるのはこのためだが、最終回の第27話「大西洋 陽はまた昇る」で、視聴者は度肝を抜かれる。

「本当に悪いのは、ポセイドン族ではなくトリトン族だった」と、物語の大前提がひっくり返る、大どんでん返し。

しかも、それまでまったく、伏線がなく、唐突な展開。

実は、『海のトリトン』の視聴率が悪かったために、当初よりも早く打ち切らなければならなかった。

また、この最終話のプロットは、富野由悠季が脚本を無視して、絵コンテの作成時に独断で盛り込んだもの。まわりに相談すると、確実に却下されると思い、富野は沈黙をつらぬき、富野自身「これはもう職権乱用です」と断言している。

■トリトンはどこへ行くのか?

ポセイドンの神殿で最後の死闘を繰り広げ、ポセイドン族を皆殺しにしたトリトン。その罪は生涯消えることはない。

トリトンは、同じ種族の人魚姫ピピと一緒にトリトン族を再建するよう、白イルカのルカ―に助言される。

しかし、トリトンは断る。

遥か水平性の彼方。大西洋に日が昇る。

ルカ―の背に乗り、昇る朝日を見つめ続けるトリトン。

トリトンは、オリハルコンの短剣を捨て、複雑な感情を抱き、絶望感漂う中で、再び旅立つ。

自分にはもう何もない。

日本にも帰れない。故郷のトリトン族もない。どこにも行く場所はない。

だが、行こう。

トリトンは、「さあ」というように、ルカ―の背びれをたたく。

昇る朝日に消えてゆくトリトン。赤いマントをなびかせながら。

その行方は誰も知らない。

子どものころ、最終回を見ても、その意味がわからなかった。だが、不思議な感情が沸き起こり、それは今も永遠に続いている。

永遠の未完成作品は、長く人々の記憶に生き続けることになった。

トリトンは英雄ではなく、幼い少女のピピと言い争い、男としての見栄や矮小な自分に苦しみ、誰も自分をわかってくれる人はいない、という孤独の悲しみが常につきまとい、みずから望まない戦いの渦へと巻きこまれた。

それは、現代社会に生きる私たちの姿とも重なり、決して英雄ではないトリトンに惹かれるのも、どこかで自分の偽善性、薄汚さを感じ取っているからだろう。

■『海のトリトン』最終回とメッセージ

「海のトリトンの最終回とメッセージ」として、監督の富野喜幸(由悠季)はこう述べている。

・青年というのは喪失の物語

・少年から青年になる時は、かならず、とりかえしのつかないことをして青年になる。「とりかえしのつかない絶望感」によって、青年になる。

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